2008年2月27日水曜日

バスラーの白い空から

須賀敦子さんの「本に読まれて」で、”抒情の原点に立つ”と評されているのを見てamazonで取り寄せた本。妻の死、愛犬セバスチャンとの暮らし、そして死、マドリッドへの家族旅行、バスラーでのこと、サハラの夜のこと、一人になってからの神戸や奈良への週末旅行のこと・・・。ちゃんと生きた人には振り返るべき人生があるということだろうか。しかし著者の佐野氏も幸せだけでなく、妻にはいえない罪もある。そして、その妻が”何も言わず、おとなしくこの世を去っていった”という文章はひときわ哀しい。そして、愛犬セバほどにはその人柄がこの本からではうかがい知れない妻との著者の関係はどうだったのだろうか?そこには少し後悔の念も見えることが気になる。そして、またその著者が過去の思い出をなぞるだけの時間しか与えられなかったことも哀しい。
全体的に装飾が多いともいえるが、激烈な商社マン人生を送ったとも思えない繊細なロマンティシズムあふれる文章である。いくつか紹介しておこう。
”春はいつの間にか終り、ハイビスカスなどの花群をふるわせるようにして、雨季が来た”
”僕は死んだセバを抱きながら、その夜、実際、夢見たのであった。・・・ニュージャージー州のメイプル林の秋のいろ、真紅と黄金の傾斜を駆け上っていき・・・”
”いつか必ずあのバスラーへ行ってみるつもりだ。そして、やさしく流れ続けているであろうアラブ河の岸にまず立とう”
しっかり人生を生きた人には、自分の人生を一冊の本として残す資格があると思った。

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