2008年9月18日木曜日

リービ英雄「千々にくだけて」

著者はアメリカ人でありながら日本語で小説を書く。アメリカに戻る途中のバンクーバーで9.11に遭遇し、足止めを食う。それは、アメリカに戻ることを拒否されているようでもある象徴的な出来事だ。
文章は事件のすさまじさにただ呆然と佇んでいるかのように奇妙に静かで、叙事詩のようだ。著者の筆致は怒りというより祈りのようでもある。
中でも象徴的なのは、著者がバンクーバーで足止めを食ったときの機長の”sometimes"で始まる機内アナウンスである。そう、機長はアナウンスで"sometimes"なんていう表現を使うことはないのだ。事務的な表現にこの言葉は似合わない。機長の想いがこの一言に込められている。
そして、もうひとつの印象的なエピソードは、NYでビルが倒壊して、そのあと降ってきた紙の切れ端に記されていた”Please discuss it with Miss Kato at Fuji Bank"という文字。これは本当の話なのだろうか?あまりにも痛い話である。
何よりも不気味なほどの静けさを文章に感じた。

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